創作


2019年9月26日studio Torteさん
彼女:彼方ん
Photo by 雀露さん






【世界が滅びる夢を見る】

もしも世界が滅びるなら

自分はきっと、最期の時まで足掻くだろう。


祖父は預言者だった。
ある日世界の終わりを告げると、その日の内に死んだ。
最初こそ予言に恐れを抱いていた町の人々も、変わらない日常の生活に飲まれると、予言なんてなかったように平穏を取り戻していった。

それからというもの、俺は何度も何度も悪夢を見るようになった。
毎回同じ内容だ。
有毒ガスが充満し、喉が爛れ空気を吸い込めなくなり呼吸困難のままに倒れる人々。
尋常ではないスピードで腐食、白骨化していく死体の数々。
球体の機械から出てくる人影…

今日も汗をかいて飛び起きると、頭を押さえて深いため息を吐く。

世界の終わり、というより陰謀か、はたまた侵略か。
「誰か」敵がいるらしい事は分かるものの、肝心なところは見えて来ない。

ただ、今日の夢はどこか違っていたような…なんだろう、思い出せない。


夢を思い出す事を諦め、コップ一杯の水を飲み干す。
落ち着いたところで、今日も図書館の秘蔵コーナーへと忍び込む。




Photo by 彼方ん


有毒ガスの発生だけは、なんとなく検討がついていた。
この町の資源であり、地下から採掘しているガスが有害ならものへと変異する例があるのだ。
ただ、それを見つけただけでは誰も相手にはしてくれなかった。
いかんせん事例が少なすぎる。
今までも何の問題もなく済んでいるし、その少数の例は原因も分かっていない。


この夢の通りになったらどうする?俺に出来ることはなんだ?






本を枕に寝っ転がる。
うなされて起きたから今日は集中力も途切れがちだ。
せめて、この本にあるような力を宿した石を見つけられればいいんだけどな…
まだ魔法が残っていたころの、今ではもう夢のような世界の話。



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ふと時計を見ると、見回りの時間が近づいている。
散らかした本を元に戻し、ずらかる準備をしたところ、大きな音と共に扉が勢いよく開いた。
慌てて振り返ると、扉から飛び込んできた女性がそのまま地面へと崩れ落ちるところだった。
彼女が持っていた木箱が、地面を滑り止まる。






「…あの、大丈夫っすか?」

一瞬見回りの警備員かと思ったが、肩で息をしている彼女は追われている方にしか見えない。
声をかけられるまで俺の存在に気が付かなかったのか、慌てて顔を上げた彼女は、木箱へと手を伸ばす。






何か大事なものだったんだろうか。
木箱を掴み彼女に押し付け、彼女を引っ張り起こす。






「あ、有難う御座います…」

戸惑ったような彼女の声は、どこかで聞き覚えがあった。
何度も聞いたことがあるような…マジマジと彼女を見つめると、困ったように眉の下がった彼女が木箱をぎゅっと抱きしめる。

「あの…私、急いで行かなきゃいけないところが…」
「あ、悪い。知り合いに似てた気がして……ヤベ、見回りの時間!」

思わずパっと彼女の手を取り走り出す。
慌てた彼女の声に向かって、見回りに捕まると面倒だから!と投げ、抜け道を通り通路へと出る。






「なぁ、どこ向かう?ここからだと道分かりにくいだろ。」
「その…地下に…」
「地下?地下ならここからすぐ行けるけど…」

その時腕に付けていた探知機が警告音を鳴らし始めた。
見るとメーターが振り切れている。
ゾワっと体中の毛が逆立つような気がした。

「ガスが…」
「ガス…!?そんな、遅かった…?!」

何度も見た夢が再生される。
今度は現実の世界で。






地下へと続く道の途中、既に白骨化した頭蓋骨を見つけ、へたり込む。

いつ起きるとも分からなかった夢が、何も手出しできないままに起こってしまうなんて。

「ごめんなさい…私がもっと早く来られたら食い止められたかもしれないのに…」

そう呟いた彼女は、抱えていた木箱を開いた。






「……それ、って、もしかして…」

あの、本に書いてあった石と同じ…

彼女はその石が付いた耳飾りを取り出すと、俺の耳へとかけ祈りを捧げる。





「せめて、せめてあなただけでも…」

石が淡く光り始めたのと同時に、俺は思わず片方の耳飾りを外し彼女の肩をつかむ。





「なぁ!これ、2人で使えるんじゃなかったか?!」
「え…?でも、これは1人で使うってお父様が…」

いや、確か本に書いてあった。
1人より、2人で使えばもっと強力な力が……






とにかく片方を彼女につけさせ、手を合わせる。
その時ふと思い出した。今朝の夢。

「あんたの声だ…」
「え?」
「聞こえたんだ。夢の中で…」

なんだろう、気持ちが溶け合っていく。
お互い何も知らないはずなのに、今までのことが走馬灯のように見える。
願いを確認するまでもなく、お互いの考えが分かる。




石が光る。
俺のつけた石の緑の光と、彼女のつけた石の青い光が合わさる。
交じり合った光が、やがて白く輝き世界を包み込んだ。




「…助かった、のか?」
「視えた、でしょ?」

ほっとしたように微笑む彼女を見て、知らずに詰めていた息を外へと吐き出した。
もしも視えた通りなら、ガスを変異させていた奴を止められたはずだ。

死んだ人間は生き返らない。
でも、同じ事例はもう起こらないはず。

悪夢の先の現実を、もう少し足掻いて生きよう。





【あとがき】

前々からスチパンをやりたいと思っていて、スタジオに合うしやろう!となった創作です。
準備時間が取れなかったので、私のはなんちゃってスチパンですが…。
写真は雀露さんが、なんかこう世界滅ぶ感じのやつってアバウトな説明でちゃんと撮ってくれたので感謝です…!

キーアイテムの羽根のイヤカフは彼方んがつまみ細工で作っている作品です〜素敵でしょ〜!
世界滅ぶ系の物語を考えて大まかなストーリーは2人で盛り上がって練ったけど、小話書くことまでは考えてなかったから久しぶりに妄想働かせて書きました。
書き切れなかったけど、彼女の父親がなんか魔法の力的なあれで有毒ガスを引き起こして世界征服目論んでたとかそんな感じです。
最期は父親を殺すことで食い止めたけど、かなりの犠牲者が出てるので復興にはまだ時間が掛かるって感じでした。
終われなくなるなーと思って書くのは諦めました…。






【ピン】






Photo by 彼方ん