【君との理由を探してた】
「…っち」
唯一連絡を取る手段だった、スマートフォン。
見るも無残に砕かれ使いものにならなくなったソレを、苦々しく睨みつける。
こんなことならば、さっさと連絡を取るべきだった。と、一瞬だけ考え、男は頭を振る。
一向に連絡の来ない相手を待つほど、アイツも暇じゃないだろう。
ふっとよぎった、待ち続ける姿を追い払う。
そんなの、自分に都合の良い妄想だ。
それでも。
連絡先が記録されているメモリーカードのみ、鉄屑の中から拾い上げる自分に苦笑する。

男は、口数が極端に少なく、目つきの悪いさに加え無愛想だった。
ゆえに絡まれる事も多々あったが、ゴチャゴチャ言いながら喧嘩を吹っ掛けてくる輩には、拳で話す方が早かった。
喧嘩をするのが好きなわけではない。ただ、言葉を捜すより楽なだけだった。
なのに。以前よりふっかけられることが多くなったのは何故だろう。
勝ち喧嘩が多い事も忘れ、男はただ首をかしげた。
そんな事を考えたこの日も例に及ばず、ふっかけられた喧嘩に拳をぶつけ合い、殴り殴られ、気付けば相手の男は逃げ帰っていた。
殴られた所が痛むのを感じならが、しばらくあてもなくブラブラと歩いた。
人気のない所を見つけて、地べたに座り込む。

「…またかよ…」
「ふふ、また喧嘩したの?」
ニコニコしながら話しかけてきた女を見て、男はウンザリした表情を浮かべる。
あれこれ声をかけてくるこの女は、話すのが苦手な男にとっては煙たくして仕方がない存在だった。
だがいくら場所を変えても、こちらの居場所を把握しているかのように、神出鬼没に現れるので対処のしようがない。
何やら言葉を紡いでいるのを受け流し、男は早々に立ちあがる。
「ねぇ、”彼女”と別れたの?」
「…いねぇよ、んなもん。」
浮かぶ情景を振り払い、男は一言残して去って行った。
一人残された女は、追い掛けるわけでもなく、ガリガリ頭を掻いている男の後姿を、ただ楽しそうに眺めていた。
撮影:13.06.03